近年、発達障害者の感覚過敏について注目が集まり始めている。2017年の世界自閉症啓発週間に際し、NHKおはよう日本でも、発達障害児の感覚過敏からくる偏食について特集が放映された。私の持つ感覚過敏と、その対処法・環境調整方法についてまとめた。
Contents
発達障害者の感覚過敏とは
感覚過敏とは
感覚過敏とは五感(視覚・聴覚・味覚・触覚・嗅覚)の過敏のこと。感覚過敏は発達障害以外の障害・疾患でも起こることがあるが、発達障害者にはいろいろな感覚過敏を持つ人が比較的多い。
感覚過敏を持つ人にとっては、感覚過敏を持たない人にとっては理解できないような刺激が耐え難い苦痛になることがある。このため発達障害児者の中には、日常生活や仕事の中で実にさまざまな困難を抱える人がいる。困難にはたとえば以下のようなものがある。
- 極端な偏食に陥ってやせてしまう、社会的な場に合わせた飲食が難しい
- 苦手な刺激のある場所から逃げ出したり、パニックを起こして暴れたりする
- 学校や仕事が続かない
- 学校や仕事に表面上は適応していても非常に疲れやすく、休みの日は動けなくなる
- 趣味などの生活活動範囲が極端に狭くなる
- 偏頭痛やのぼせなどの持病を持つことがある
原因としては主に、感覚器(目、耳、鼻など)の機能の問題、感覚刺激を受け取る脳・神経系の機能の問題が指摘されている。
聴覚過敏について詳しくはこちらの過去記事を。聴覚過敏が体験できる動画もある。
発達障害と偏頭痛の関係についてはこちらの記事を。
※ちなみに、発達障害者の中には感覚鈍麻(五感が鈍い)を持っている人もいるし、感覚過敏と感覚鈍麻を混在させている人もいる。
発達障害と感覚過敏の扱われ方の変遷
「発達障害者の困りごと」に関する世間一般での理解の大半は最近まで「コミュニケーションに苦手を抱えている」といったコミュニケーション障害に関するものだったが、2017年ごろになってにわかに感覚過敏の要素が注目を受けるようになった。
(この本が主に取り扱っているのは自閉症だが)発達障害と感覚過敏をメインテーマとする書籍も出た。
また、2017年4月の「世界自閉症啓発週間」に際し、「NHKおはよう日本」が特集を放映して、発達障害児の偏食と感覚過敏の関係について詳しく報じた。
子どもの”偏食” 実態明らかに|けさのクローズアップ|NHK おはよう日本
メンタルヘルス系雑誌、季刊Be! 127号では感覚過敏についての巻頭特集が組まれた。宇樹も当事者として4ページを割いて取材していただいた。
私個人の感覚では、最近までに「発達障害」という言葉が一般におおよそ普及し、2017年に際してより具体的な理解のフェーズに入ってきたのかな、という感じがする。
今までは「コミュニケーション障害」という、ともすると心の持ちようの問題と誤解されがちな面に注目が向けられていたのが、感覚過敏というどちらかというと身体的・器質的な面にも注目が向けられるようになってきた。私は感覚過敏は発達障害者のQOLに、ともするとコミュニケーション障害よりも大きく影響すると思っているので、個人的には大歓迎な流れだ。
苦手な場所・刺激一覧
私、宇樹は成人発達障害者(高機能自閉症)。私が感覚過敏の特性上苦手な場所や刺激の一覧を紹介する。
苦手な場所
電機店
電機店のほとんどは照明が煌々と明るく、BGMは大音量で、さまざまな電気機器があちこちでひっきりなしにいろいろな音を立てているので、視覚・聴覚がすぐにキャパ超えしてしまう。
ドラッグストア
ドラッグストアもやたらと照明が明るいところが多い。また、化粧品や洗剤などいろいろな香料の匂いが雑多に混じっていることもある。
ショッピングモール
特に屋内の吹き抜けがあるコンクリ製で、音が大きく反響するようなつくりのモール。それぞれの店のBGMや売り子の呼び声、買い物客の雑踏の音が一緒くたに混ざりあい、うなりのようになって耳に刺さってくる。
商品や情報がごたごたしているタイプの雑貨店
○ンキホーテ、○ィレッジ○ァンガードなどを想像してほしい。商品自体が上下左右所狭しとごちゃごちゃ並べられており、派手なポップアップなども林立している。たいていはBGMも大音量。まず視覚情報が過多。そして聴覚にもやさしくない。
コンビニ(日没以降)
照明が理解を絶するほどまぶしい。日没後に行くと外との明暗差で頭が痛くなってしまうことがあるし、睡眠の質が下がる。
カフェ(特にエスプレッソマシーンのあるところ)
人と行ってもエスプレッソマシーンなどの音が大きすぎて相手の声がほとんど聞こえず、苦労する。自分で自分の声が満足に聞こえる音量で発声すると、ほとんどの場合「声が大きいよ」と注意されてしまう。
※例えるなら工事現場の真ん中に立っている感じ。こういう状態を「カクテルパーティー効果が効かない」と表現する。聴覚過敏のない人は聴覚情報をうまく取捨選択して必要な音を重点的に聴くことができるが、聴覚過敏のある人の中にはこれができず、音情報に翻弄されてしまう人がいる。
居酒屋、オープンキッチンや焼き物系飲食店
客や調理の音で騒がしいのもつらいが、何よりつらいのは食べ物のにおいが全身に移ってしまうこと。帰っても居酒屋にいるような感じがするので、身体も含めて洗えるものはすべて洗い、洗えないものはなんとかして脱臭しようと努力する。
寝るときに身体のどこかから食べ物などの匂いがしたり皮膚に何かついたりするのが嫌なので、お風呂に入ったあとに外出するのも、食事をするのもとても嫌。
ライブハウス・クラブ
頑張って行くと消耗しきって、翌日、下手すると翌々日まで寝込んでしまうほど音が大きい。みぞおちまで揺さぶられて恐怖を感じ、解放されたあとはしばらく耳鳴りが止まないようなあの音の大きさを心地よい刺激と感じられる人がいるらしいことは、本当に理解しがたい。
コンサート・演劇・映画などの会場
音楽も演劇も映画も好きなのになぜ鑑賞に出かける習慣がないのか不思議だったが、感覚過敏を自覚してから理解した。どれも私にとって五感の刺激が過剰なのだ。
基本的に音量が大きすぎるのでまず耳が疲れる。そして映画は、見て印象に残ったシーンがいつまでも脳裏で強制リプレイされ続けるので、あまりに熱中して見てしまうストーリーや、怖かったり残虐だったりするストーリーの映画は見た日から数日間の睡眠の質に影響してしまう。眠れなくなったり、悪夢を見たり。
魚市場
古くなった魚の臭いがだめで、気持ち悪くなってしまう。海辺で食べられるような新鮮なものでないかぎり、魚は基本的に食べるのも調理するのも苦手。
晴れの日の屋外
眩しくて目が開けられない。小さな頃、写真を撮るときなどによく母に「しかめっ面で感じが悪い」とよく怒られたが、どう頑張ってもまともに目が開られず難儀した。
曇りの日の屋外
曇りは曇りで晴れの日とは違った眩しさがあり、目の奥が痛くなることがある。どこかで「雲の層がすりガラスのようになって太陽の明るさを増幅させる」などといった仕組みを聞いたことがあるが、真相は不明。
雑踏
ざわめき、いろいろな匂いが混ざってとても疲れる。
ときどき、モスキート音という、普通の成人には聞こえない高周波の音が耳に刺さってくることがある。車がごく低速で走っているときのなんらかのブレーキの音にも高周波が混ざっているので、交差点で突然ギャッと叫んで耳をふさいでしまうことがある。
乗り物
エンジン音、空調の匂い、人の匂いなどがあいまってすぐに頭痛を起こしたり気持ち悪くなったりする。小さい頃は非常に乗り物酔いしやすかった。
苦手な刺激
飲食物
味が混ざる食べ物・食べ方
今は大丈夫だが、小さな頃は口の中で複数の味や食感がするのがだめで、ごはんはごはん、おかずはおかずで一品ずつ片づけていくような食べ方をしていた。いわゆる三角食べができなかったのだ。家でも学校でもしょっちゅう怒られた。
和食だろうがなんだろうが200ミリ程度の牛乳のみで食べ切れとする当時の給食は私にとってどちらかというと狂気の沙汰で、なぜみんなあんなおぞましい食べ方に耐えられるのか不思議でしかたなかった。よく掃除の時間まで残されて叱責されたっけ。ホコリ臭いしどんどん気持ち悪くなってくるし、ほかの子どもには嘲笑されるしで、あんな拷問はなかった。
硬い・音が出る食べ物
アゴの噛み合わせがいまいちですぐにアゴが疲れるのもあり、硬いものが苦手。ザクザク、ガリガリしたようなものは口の中に刺さって痛いし、頑張って噛んでいるとぐったり疲れ、ときに頭痛につながったりする。
あと、これはおはよう日本の放送かその反応を見ていて初めて気づいたのだが、硬いものを食べているとき、噛んでいる音が自分の頭の中で響いてうるさく、周囲の音が聞こえなくなる。皆がそういうものなのだと思っていたが、どうも違うようだ。
結果的に麺類が大好物というか、疲れているときにはそういうものしか食べたくなくなる。、適度に柔らかく、つるつるしていて楽に噛んで飲み込めるからだ。
柔らかすぎる食べ物
これも皆そうだと思っていたのだが、ある程度以上柔らかい食感のものが苦手で、うまく飲み込めずにウッとなることがある。熟れたバナナ、最近流行りのとろける系食感の豆腐やプリンなど。
匂いや味の強すぎる食べ物
にんにく、ねぎ、にら、唐辛子、また塩気や油気の強すぎるものが苦手で、食べすぎると胃腸の調子を崩す。基本的に薄味好き。
みそ汁やラーメンのスープなど、少しでも濃すぎたりうまみ調味料が多すぎたりすると「舌が疲れる」気がする。飲み干せないことがほとんど。
嗜好品・薬剤
カフェインや利尿作用のあるもの、アルコール、漢方薬の麻黄、鎮痛解熱剤など、どれも過敏で、すぐに胃腸症状が出てしまう。
アルコールに関してはいつ飲んでも気持ち悪くなるばかりだと思っていたら、遺伝的に分解酵素が作れないことがわかり、飲んだらだめと言われた。
詳細は以下の過去記事にて。
服飾品
化学繊維の服
特にインナー。がんばって身につけても必ず接触性皮膚炎のようになったり、おできができたりして苦しむので、コットンしかだめ。
パジャマにフリースのものを着ている人がいるが、あれ、なぜ大丈夫なのか不思議だ。汗がこもって気持ち悪くなったりしないのか。
生地が硬い服・圧迫のある服
苦しくてきつくてものすごく疲れてしまう。外出先から帰るとともかくよそ行きの服は即全部脱ぐ。ブラジャーをとるとほっとする、という感じが全身にあるような感じ。
スキニーパンツ、タートルネック、詰まった丸首なども苦手。
重たい服・アクセサリー
ただでさえどんくさく、筋力が不十分で、重心をとるのが苦手。重たい服やアクセサリーをつけているととても動きづらいので、できるだけアクセサリーはつけないし、身につけるなら軽いものを選ぶ。
チクチクする素材
昔からウールは上等なものでもだめで、むしろアクリルのほうが安心して着ることができた。セーターをじかに着るなど言語道断。一瞬で全面チクチクカユカユになってしまう。
シャカシャカ音のする素材
着ていて音がするものは無駄に耳が疲れるのでだめ。
表面のデコボコが強い素材
手編みのセーターなど、表面がデコボコしているものは着ている感触だけで疲れてしまうのでとても嫌だった。祖母がとてもいい手編みのセーターをしょっちゅう作ってくれたが、いつも嫌がるので「わがままだ、甘えている」としょっちゅう怒られていた。
派手すぎる色柄の服
視界の端に常に強い色がちらちらするとそれだけで目が疲れてしまう。基本的に地味でシックなものが好み。
脱ぎ着による調整が難しい服装
たとえば下着の上に直接厚手のセーター、みたいなものは暑くなったときに脱いで体温調節ができないので着られない。
どうも体温調節が苦手なようで、秋冬の外出先で暖房にあたっているとしょっちゅうのぼせてしまう。だいたいはコートもカーディガンも脱いで、シャツ1枚になって歩き回ることになる。なぜみんなコートにマフラーまで着込んで平気なのか不思議だ。夏は夏で冷房が寒くて上着が手放せない。
合わない感触・香りの洗濯洗剤・柔軟剤
合わない香りは偏頭痛の誘因になるし、ちょっとでも合わない成分の入っている洗剤・柔軟剤は肌に触れるとかゆくなってしまう。新しい洗剤や柔軟剤を買うときはいつもドキドキ。各社に数回分のお試しパックを出してほしい。
ヘアピン、地肌が引っ張られる髪型
小さな頃から、地肌が引っ張られたりチクチクしたりするのがとても苦手だった。よそゆきのときにきっちり髪を編み込んでもらったりピンで止めたりすると、その刺激で地肌がかゆくなったり頭痛がしたりした。やはりしょっちゅう怒られていた。
こういったことの対処法について詳しく書いた過去記事は以下。
作業環境
明るすぎる照明
普通の人が平気な明るさの照明がだめ。明るさの調節ができない部屋は、強制的に蛍光灯を1個外してなんとか調整する。
明るすぎるディスプレイ
なぜみなあんなキンキンの画面を見ていて頭が痛くならないのだろう。ディスプレイは視認性をギリギリ確保できる程度まで輝度とコントラストを落とす。それでも間に合わないものにはブラウンスモークの入ったアクリル板を貼ってしまう。
空調などの騒音
長時間ブンブンした音にさらされているとものすごく疲れてしまい、ときに頭痛につながる。少しは稼げるようになってから、空調関連のものを少しずつより静音の新しいものに買い替えていっている。
空気の乾燥・多湿
小学校の頃から、校庭に出て遊んだり、雑巾を絞って掃除したりするのがすごく苦痛だった。いま、部屋の湿度をつぶさに測れる湿度計や、加湿器・除湿機などが揃った環境に身を置いてみてわかるのは、「自分は皮膚の乾燥する感じが苦手だった」ということだ。
多湿も多湿で気持ちが悪くなるので、部屋の湿度はできるだけ50〜60%に保つようにしている。
対処方法・環境調整方法
私がとっている対処・環境調整方法を紹介する。
防備する
うるさいところに行く→ 耳栓・デジタル耳栓
2017年現在おすすめのデジタル耳栓については以下の記事で紹介している。
臭いところに行く→ マスク
眩しいところに行く→ サングラス
※私は感覚過敏用の薬を特に飲んでいるということはないが、抗てんかん薬やADHD系の薬などで感覚過敏をある程度コントロールしている人もいるようだ。薬を使ってみようという人は必ず医師に相談のこと。
回避する
苦手な刺激のあるところには、できるだけ調子のいいときにだけ防備態勢をとって行くか、行かずに済む生活形態を選ぶ。
おのずと仕事は完全在宅のフリーランスとなり、普段も最小限しか出かけないという生活スタイルを守っている。
感覚過敏は「コントロールするもの」
感覚過敏は、基本的には治らない。いろいろな対処や環境調整でコントロールしていくものだ。
感覚過敏による生活への悪影響を最小限にするには、近くにいる人たちによる理解と協力、支援が不可欠だ。本人も周囲も大変ではあるが、できるだけ楽に生活が送れるようになってくれればと願う。
過去の関連記事は以下。
外部の関連記事
おはよう日本の特集が放映された日の関連ツイートを以下にまとめてある。
発達障害の感覚過敏からくる偏食 ーおはよう日本の特集に際して
友人のくらげくんによる記事はこちら。

コメント
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