【論考】ニセ医学の存在は発達障害児の母親たちを障害受容から遠ざけるかもしれない ―キューブラー・ロスによる「死の受容プロセス」をたたき台に

この記事の所要時間: 1015

ニセ医学・トンデモ医学の存在が、発達障害児の母親たちを障害受容から遠ざけるかもしれない、という論考。キューブラー・ロスによる「死の受容プロセス」をたたき台にしている。

【2016年2月28日補足】
・タイトルと文中の一部表現を変更しました(健全な障害受容→障害受容)
・心理学の専門家の方から、キューブラー・ロスを障害受容にあてはめるのはステレオタイプであるし、キューブラー・ロスはどちらかというと日本では過大評価されている、との意のご指摘をいただきました。私は心理学の専門家ではないため、一般の人と同程度の知識でもってロスのわかりやすい理論に飛びついてしまったのですが、これはやや安易だったかもしれません。わかりやすい理論に飛びついてしまう傾向は、まさにニセ医学・ニセ科学への騙されやすさに直結するもので、私自身ふたたび気を引き締めなければと思った次第です。読者の皆様におかれましても、当記事はこの点をさしひいてお読みいただけましたら幸いです。
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キューブラー・ロスによる「死の受容プロセス」

精神科医エリザベス・キューブラー・ロスによる、死の受容に関しての有名な説がある。がんを告知された患者がみな似たような心理的プロセスをたどることを発見し、そこから構築した5段階のモデルだ。もともとはがん患者が死を受容するまでの心理モデルにのみ使われていたが、最近は「大きな喪失」全般に応用されるようになっている。

第1段階 「否認」
患者は大きな衝撃を受け、自分が死ぬということはないはずだと否認する段階。「仮にそうだとしても、特効薬が発明されて自分は助かるのではないか」といった部分的否認の形をとる場合もある。

第2段階 「怒り」
なぜ自分がこんな目に遭うのか、死ななければならないのかという怒りを周囲に向ける段階。

第3段階 「取引」
延命への取引である。「悪いところはすべて改めるので何とか命だけは助けてほしい」あるいは「もう数ヶ月生かしてくれればどんなことでもする」などと死なずにすむように取引を試みる。神(絶対的なもの)にすがろうとする状態。

第4段階 「抑うつ」
取引が無駄と認識し、運命に対し無力さを感じ、失望し、ひどい抑うつに襲われなにもできなくなる段階。すべてに絶望を感じ、間歇的に「部分的悲嘆」のプロセスへと移行する。

第5段階 「受容」
部分的悲嘆のプロセスと並行し、死を受容する最終段階へ入っていく。最終的に自分が死に行くことを受け入れるが、同時に一縷の希望も捨てきれない場合もある。受容段階の後半には、突然すべてを悟った解脱の境地が現れる。希望ともきっぱりと別れを告げ、安らかに死を受け入れる。

死ぬ瞬間 – 死の受容のプロセス – Wikipedia

【思考実験】
「死の受容プロセス」を、ある発達障害児の母親のケースに当てはめてみる

私が診断を受けたときにも、これと同じような心理的プロセスをたどった経験がある。思うに、障害の診断・障害告知→その受容というのは、「『健常であったはずの誰かの比喩的死』を受け入れる体験」なので、ロスのこの「死の受容プロセス」の5段階モデルがきれいに当てはまるのかもしれない。

私が診断を受けたときは、ロスのモデルと同じような心理的プロセスをたどった経験がある。思うに私にとって、自らの障害の診断・障害告知→その受容というのは「『健常であったはずの自分の比喩的死』を受け入れる体験」だったので、ロスのこの「死の受容プロセス」の5段階モデルがきれいに当てはまったのかもしれない。

というわけで、試しに、この個人的推測をもとに、子どもが発達障害の診断を受けたある母親のケースを想定して、ニセ医学の影響で最悪どんな状況が起こりうるかの思考実験を行なってみたい。

※以下は現状で発達障害児の母親がたどりうる「最悪のケース」を仮に描き出し、それによってニセ医学について注意喚起することを目的としたものである。以下の記述は、「全員または多くがこういった状況に陥る」と主張するものではない。また同記述には、発達障害児の母親や、以下に挙げたケースと同じような状況に陥った人々を侮辱する意図はない。私は、以下に挙げたケースのような人々を「不運にもニセ医学・トンデモ医学に巻き込まれた被害者」と捉えている。
※【2016年11月28日訂正・追記】 読者様からのご指摘を受け、上記の訂正・追記(この見出しに属する訂正線部分および太字部分)を行いました。ご指摘に感謝申し上げます。自らのケースから出た推測のみをもとに、実際の保護者の方々に対する想像力を欠いた一般化を行ってしまったことについてお詫び申し上げます。申し訳ありませんでした。

第1段階「否認」

私の子が障害児なはずがない。私は妊娠中の食事にも気をつけたし、ながら育児もしなかった。だからうちの子が発達障害なはずがない。
→ここですでに、否認に都合のいいニセ医学理論を引っぱってきている。実際には、発達障害の発症と、母親の妊娠中の食事、育て方との間に関連性はない

仮に発達障害だったにしても、白砂糖を抜くとか、グルテンを抜くとか、小麦を抜くとか、乳酸菌やビタミンのサプリを摂らせるとかしたら治るっていう情報がネットで調べてたら出てきたからみんなやってみよう!
→否認に都合のいい理論を集め始める。実際には、発達障害は先天的な障害であり、「治る」ものではない。できるとしたら「コントロール」のみだ

ホメオパシーも効くって聞いた! 高いけどパートを増やして買おう、子どものためだもの!
→ホメオパシーの効果はプラシーボと同程度であることが既に証明されている

ママ友が内海聡先生に叱られて反省したって言ってた! 私ももっと反省して母親としていい心がけをしなきゃ!
→内海聡氏はニセ医学・トンデモ医学のトップのひとり。「障害児を産んだ母親は死ぬほど反省しろ」との趣旨の記事を書き、炎上したこともある

第2段階「怒り」

パパもお義母さんもママ友もどうかしている。みんなが私をおかしいと言う。私は子どものためを思っているだけなのに。
そもそも、どうしてうちの子だけが、どうして私だけがこんな目に遭わなければならないの? 何も悪いことなんてしてないのに。世の中って理不尽。
パパはなんて冷たいの。きっと腹を痛めて産んでいないからあの子のことなんてどうでもいいんだわ。もういい、あの子のことは私がどうにかする。あの子を本当に愛してるのは私だけなんだ。もう放っておいて、私とあの子にかまわないで。

→こうしてこの人は頑なになり、元あった健全な人間関係を断って、より危険なものへ没頭するリスクを高めていく。
共依存の人間関係、カルト宗教や詐欺集団では、ターゲットを洗脳する過程で、本人のもともと持っていた健全な人間関係を断絶させて孤立させる作業を行なうことが多い。このケースでは、この関係断絶作業を本人が自らやってくれるので、ニセ医学側にとっては好都合だろう。
おそらくニセ医学側は、ターゲットが本人の家族や友人に対する怒りや不信をあらわにしたとき、親切そうにそれを支持し、喜々として本人の信念を強化する側に回るだろう。

第3段階「取引」

ママ友に役に立つ勉強会だと誘われて行ったセミナーが○○教のところだった。すごく威厳のある指導者の方が特別に私に祝福をしてくださって、あなたの子どもは悪い霊に憑かれている、このままだと大変なことになる、今なら除霊できるからしてあげようと言ってくださった。
それから、家族は子どもの魂の浄化の邪魔になっているから、この件に関わらせてはいけないと言われてしまった。やっぱり家族は信じてはいけないんだ。あの子のことは私だけが守るべきなんだ。
献金が○十万円必要だと言われてしまった… 今月はレメディの出費とかできついけど、頑張ってやりくりして出そう、子どものためだもの… ○○神の力でうちの子が普通の子になるなら… 神さま…

→勉強会やセミナーと銘打った集まりがフタを開けてみたらカルト宗教の集会だった、というのは本当によくあるケースだ。
また、「あなただけ特別に○○してあげる」という、自尊心をくすぐる手法も非常によく使われる。こういったものに騙されるタイプの人はなんらかの喪失体験によって自己肯定感が低くなっており、人からの評価に飢えていることが多いからだ。
そして、ここでも健全な人間関係を断絶させようとする働きかけが起きている。すでに本人は前段階で家族に対する怒りと不信でいっぱいになっており、それを現在信じているニセ医学側の指導者たちに支持されているので、この信念をいまさら撤回するわけにいかず、ますます孤立を強めるわけだ。

第4段階「抑うつ」

なんだかすごく疲れてしまった。最近切り詰めていて美容院も行っていない。先日の除霊のために、父の形見の時計をこっそり質にも入れてしまった。子どもの様子は変わらない…
私のいままでの努力ってなんだったんだろう。私の人生の意味もなんだったんだろうな。ママ友もみんな私を避けるようになっちゃったし、パパももうロクに口もきいてくれない。子どもは相変わらずの様子で、いろんなことが虚しくなってきちゃった。
このところ体調が悪くて何もやる気が起きない。気づくとぽろぽろ涙が出てきたりしてて。パートを休んで一日家にいるのに、家事が進まない。
洗濯物の山の中で泣いてたら、息子が心配そうに様子を見にきた。「僕が悪い子だから?」って目に涙をいっぱいためて… もうこの子と死のうかな…

→ここで、ずっと向かい合わずにいたしわ寄せがどっとやってくる。ここで心が折れてしまい、自殺や無理心中、離婚などに至ってしまうケースもあるかもしれない。

【分析】
ニセ医学の存在は、発達障害児の母親が落ちる穴をより深く暗いものにしているのではないか

私の場合、もともと自分で正しい知識を持っていたし、第4段階までの間に適切な支援機関にたどり着くことができたので受容に至ることができた。しかし、上で考えてみたケースのように、運悪く途中でニセ医学・トンデモ医学・カルト宗教など不健全なところに引っ張りこまれてしまう場合もあるだろう。

不幸にも健全な支援に出会えず、ニセ医学・トンデモ医学に引っ張りこまれたまま第3段階まで来てしまうと、もう簡単には後戻りできない。現在の自分の信念を疑うことが即、自分の現在のアイデンティティの危機につながってしまうので、容易には信念を捨てられなくなっているのだ。こうなってしまうと、素人が論理的に説得しようとしてもほぼ無理と思われる。

ここまで来てしまった人にはおそらく、専門家がチームを組んでのディプログラミング(脱洗脳)の作業が必要で、時間も手間もかかるものとなるだろう。

上で考えてみた例は、やや極端に過ぎるかもしれない。しかし、個人的な印象では、けっこう似たようなケースをネットのQ&Aやブログなどでかなり見かけたように思う。
 
発達障害児の母親を不幸に陥れている最大の原因はもちろん、「適切な支援が圧倒的に不足していること」だ。診断後の発達障害児とその母親の世界には、ぽっかりと暗い穴があいたようになっている。しかし、そうした穴をさらに暗くて深い、一度入ったら出られない地獄のようなものにしているのは、ニセ医学・トンデモ医学なのではないかと私は考えている。
 
ニセ医学・トンデモ医学がなければ、いつまでも否認の世界に閉じこもり、本人のコピーのような被害者をさらに産んでいってしまうような人たちは生まれないで済んだのではないだろうか。 
 
彼女らのような人たちがこれ以上増えないようにするため、いちライターとして何ができるか、私は今日も考え続けている。

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https://mamanoko.jp/articles/10936

※上記のmamanokoさんの記事のライター「Cotirad」は宇樹の別のペンネームである。

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