タロットは一般的な怪しいイメージとは裏腹にかなり論理的に作られたものだ。絵柄も美しく、趣味として楽しんだり、生活上のヒントにするのにとても良いツールである。タロット初心者向けの入門的解説をお届けする。
タロットにハマッた
タロットにハマッた。
理屈っぽい私だが、実はこういう怪しい世界のものはけっこう好きである。
もともと10代の頃から、かなりフワフワしたタロットはやったりやられたりしたことがあったのだが、(いま思えば底本としていたものが正統派から外れてクセのあるものだったので)あまりピンとこず、離れていた。
そこへ最近、ひそかに敬愛する精神科医のシロクマ先生が、以前タロットをやっていたとのブログ記事をお書きになった。
彼らの考える「ブログ世界」の此方と彼方、それとタロットについて – シロクマの屑籠
たまたま夫婦でモバイルアプリの1枚引きをやってなんのかの言い始めていたところで、やっぱりやたら当たる感覚があったので、このさい正統派なものを調べてやってみようと思い… 調べたところハマッてしまったのだ。
自分の理解と備忘のためという目的もありつつ、タロット初心者の人に向けてタロットの基本を語ってみたい。
タロットとは/タロットの歴史
タロットの定義とタロットの歴史
タロットとは、78枚1組の占い用カード。現在の形をしている最古のものは1430年ごろの北イタリア(フェラーラまたはミラノ)とされる。
1781年、オカルト史大全「原初世界」でタロットが体系的に研究され、この研究が19世紀を通して発展。魔術結社「黄金の夜明け団」によってほぼ完成形をみる。
1909年、イギリスの文筆家アーサー・エドワード・ウェイトが「黄金の夜明け団」の研究をもとにデザインしたタロットが、ロンドンのライダー社から発売される。これはのちに最も世界に普及するものとなり、ウェイト版、またはライダー版などと呼ばれる。
タロットと現在のゲーム用トランプを同一起源とする(トランプはタロットの絵柄を単純化したものとする)説が存在するが、時間的地理的整合性がとれないとしてこれを俗説とする説もある。結論はいまだに出ていない様子。
タロットの構成
タロットは、大アルカナと呼ばれる分類のカード22枚と、小アルカナと呼ばれる分類のカード56枚(数札40枚、コートカードと呼ばれる札16枚)で構成されている。
数札には「棒(ワンド。バトンとも)」「聖杯(カップ)」「剣(ソード)」「金貨(ペンタクル。コイン、ディスクとも)」のスート(組)があり、各スート10枚で構成される。
コートカードは4つのスートにつきそれぞれ「ペイジ(小姓)」「ナイト(騎士)」「クイーン(女王)」「キング(王)」の4人の人物のカードが存在する。
現代のタロット/おすすめタロット
現代のタロットで最もスタンダードとされるのはウェイト版(ライダー版)だが、次にポピュラーなのはマルセイユ版である。
入門者にはウェイト版が最も使いやすいだろう。ウェイト版は準拠している解説本がもっとも多い。私が購入したのはこちら↓のものだが、カードの質が非常にしっかりしていて丈夫だ。もしかすると紙ではなくプラスチックなのかもしれない。大きさは普通のトランプより一回り大きい印象。私の手にはやや大きすぎ硬すぎ、滑りがよすぎるのでまとめるのにやや難儀するが、シンボルの読み取りなどはしやすい。
ウェイト版の魅力のひとつは絵柄の鮮やかさだが、鮮やかさよりも繊細さを重視したい人や、ウェイト版をひととおり使いこなして把握できているという人にはマルセイユ版もおすすめだ。
タロットにはその他、ありとあらゆるバリエーションがある。どれも正統派タロットの大アルカナ・小アルカナの考え方をベースに、それぞれに対応するキャラクターや絵柄をイマジネーションで当てはめて作られたものだ。
有名どころとしては天使、妖精、聖人、ユング版がある。
その他、エジプト、鳥、猫、神話、各時代の西洋画もの(ルネサンス、アール・ヌーヴォー、ボッティチェリ、ミュシャ)… もうきりがない。鳥タロットがすごく可愛くてこじつけ感がたまらないので紹介しておく。
ウェイト版やマルセイユ版を使いこなし、タロットの構成や意味合いについておおよそ把握できたという人は、こういったバリエーションに触れてみるのもいいだろう。世の中にはタロット収集家なる人もいるらしく、少し気持ちがわかるなあと思った。手のひらサイズのカードの中にいろいろなシンボルがギュッと詰まっていたり、見た目に美しいものは何か心を掴むものがある。キリスト教のカトリックでは「ご絵」といって聖人の肖像などを描いた綺麗なカードを持ち歩いたりするが、その感覚にも通ずる感じがする。
タロット用語解説
タロット
tarot。語源は不明。英語・仏語ではtを発音せず「タロー」に近い発音になる。
デッキ
deck。ひと組の。船の甲板という意味のデッキと同じ語で、語源は古いオランダ語の「覆い」という意味。
アルカナ
ラテン語のarcunumの複数形で、「引き出し」という意味から「引き出しに隠された」→「秘密」「神秘」という意味を持っている。大アルカナはmajor arcana、小アルカナはminor arcana。
コート
court。宮廷。コートカードというと、宮廷カードという意味。小アルカナのうち、ペイジ、ナイト、クイーン、キングという、宮廷にいる4人物を描いたカードのこと。
スート
suit。ひと組の、ひと揃いの。小アルカナの数札のうち、棒、聖杯、剣、金貨それぞれ10枚ひと組のことをスートと呼ぶ。ビジネス用のスーツと同じ語。
ペイジ
page。小姓、騎士見習い、若者。語源は古いギリシャ語の「少年」。
ワンド
wand。棒、杖。小アルカナのスートのひとつ「棒」のこと。別名バトン(baton)。
ペンタクル
pentacle。五芒星(☆)の印。小アルカナのスートのひとつ「金貨」のこと。別名コイン(coin)、ディスク(disk)とも。pentaは「5」を表す。
趣味的タロット入門/タロット解説
タロットに左右されすぎないで!
正統派のタロットに何度か触れた人であれば、タロットがしばしば怖いほどに現状に沿った形で展開されることを知っているかもしれない。タロットが心理学的カラクリ(占いは心理学的にいって、基本的に「当たるように感じる」)や単なる偶然にはとどまらないようにしか思えない展開を見せることは、実際問題そう少なくないのだ。このあたりの不思議さが、ユングをしてタロットにハマらせた要因のひとつとなっているのだろう。
とはいっても、タロットに左右されすぎるのも問題だ。どんな宗教も心理療法も占いの類も、自分の精神衛生にとってプラスのものをくれる限り利用するものであって、実践することで逆に不安や恐怖や苦しみが増えるようでは本末転倒だ。
タロットは良くも悪くも、人の運命を変えるものでも、未来をピタリと言い当てるものでもない。また、出たときに「悪いカード」として怯えるべきもカードもなければ、逆位置だからといって不安になる必要もない(これは正統派の読解指南書を読み込むほどに理解できていくことだ)。タロットは、小さなカードの中に詰め込まれたたくさんの寓意の中から、読み解く者(または読んでもらう者)がその瞬間の本人にとってのヒントを受け取り、有効利用するものに過ぎないと私は思っている。
あるいはタロットは、単に美しい絵柄に親しみ、数々の寓意を探求することを楽しむ趣味的・オタク的研究の材料に過ぎない。
タロットに触れる人には、このあたりのことをしっかり心に留めてからタロットの世界の探求を始めてほしい。
タロットリーディングは「占いではない」?
伝統的タロットに触れるようになって日の浅い私が言うのもなんだが、タロットは一般的な印象以上に論理的に作り込まれている。タロットのリーディングにはいわゆるサイキックな力やオカルティックな雰囲気は必要ないようだ。どちらかというと研究者のような探究心と知識、読解能力が必要で、むしろ(私のような)理屈っぽいタイプに向いているようにも思う。
そういった意味では、タロットリーディングは(読む対象が偶然に大きく左右される要素はあるが)一般的にイメージされている意味での占いというよりも、「寓意の論理的読解」に近いと言える。つまり、どこまでも文字通り「リーディング」なのである。
こういったことはタロット以外にも言えるのではないかと私は考えている。占いのうち伝統的と呼ばれるもの(西洋占星術や四柱推命など)の正統派の占い方は、オカルティックであったりサイキックであったりというよりも、むしろ「統計的なデータを論理的に読み解く」というのが実態に近いのかもしれない。
論理的に読解する
タロットの論理的構造を理解すれば、塔や死神は「悪い」カード、Loversは必ずロマンスを表すもの、などと表面的な理解に左右されることなく、タロットが本来持っている深い寓意を受け取り、創造的なリーディングができるようになる。
この記事のタイトルは初心者向けを謳っているが、実際、以下のことをしっかり探求できる人はもう中級以上と言っていいのかもしれない。
位置構成で読み解く
タロットの図柄の配置は考え抜かれていて、カードの左側が潜在意識、右側が表面意識、手前(近景)が現在、向こう(遠景・背景)が未来を表すとされている。
図示しながらわかりやすく解説されているのはこちら。
Lyrical Cards | タロットカードの意味・解説 | 立体的に見てみる http://www.lyrical.jp/library/tarot/rule/3d/3d01.htm
色で読み解く
タロットでは、図柄への色の使い方にも意味が込められている。
白=純粋さ
黒=悪きもの
赤=情熱
緑=若々しさ
など、だいたいは感覚でとらえることができるが、ややタロット独特なものとしては
黄色(金)=良きもの、繁栄、輝き
青=変化、場合によって悪事
といったものがある。
詳細はこちら。
Lyrical Cards | タロットカードの意味・解説 | 色に注目する http://www.lyrical.jp/library/tarot/rule/color/color01.htm
黄色はおそらく過去に印刷で金色を表現するのが難しかったために金色の代わりに用いられたことから、このような意味になったと思われる。
青はキリスト教的なイメージからすると聖母マリアのマントの色で、誠実さや純潔(天の真実)の象徴とされているが、タロットの青はそれとは異なった文脈で使われていることには注意が必要だ。
シンボルで読み解く/おすすめタロット解説本
タロットには無数のシンボルが登場する。棒(ワンド)は男根や男性原理を象徴するものでもあるとか、剣(ソード)は断ち切るイメージから判断や分析、ときに冷徹さを表すものだとかいった、ユング的とも一般的とも言える解釈のできるものもある。その他にも、天使、獣、占星術的なシンボル、錬金術的なシンボル、キリスト教的シンボル、神話的シンボルなどなど、挙げていくときりがない。
このあたりは、もともと神話や宗教、シンボルの世界にオタク的興味を持っている人たちにアドバンテージがあるかもしれない。
私はオタク的タイプなのでこの本が非常にぴったりきた。ウェイト版のリーディングについてかなり網羅性の高い解説書だ。これについていける人にはこれ一冊でかなりのことがカバーできると思うが、レビューの中には「モノクロの文字ばかりでわかりにくい」「初心者にはハードルが高い」といったものもある。
オタク的タイプではない人の最初に触れるタロット入門書としては、こちらの本が非常に人気で、高評価のレビューがたくさんついている。カラーで平易に解説がされているので、ともかくやさしくわかりやすいものから、という人はこの本から試してみるといいだろう。
我こそはオタク的人間であり、上記の「タロット・バイブル」でも飽き足らず、シンボルの世界をもっとどっぷりと探求してみたいという人には、こちらの事典をおすすめする。5センチほどの分厚さのずっしりとした事典で、端から端まで、古今東西のシンボル・イメージについての微に入り細に入る解説である。お値段もそうとうなものだが、オタクやマニアにとっては宝の山以外のなにものでもない。タロットだけでなく、世の中のあらゆるものをもっと深く読み取りたいというときに重宝する。
ストーリーの流れから読み解く
タロットは、一枚一枚のカードの中にある寓意を読み取るだけでなく、それぞれのカードのストーリー的つながりを意識しながら読み取っていくとより深い読解ができる。一枚一枚のカードが縦の糸であれば、カードごとのストーリー的つながりが横の糸であり、それらが組み合わさったときに壮大で深遠な寓意の網が編み上げられるのだ。
たとえば大アルカナは、0番の「愚者」が21番の「世界」の完成を目指して歩む旅のストーリーであるとも言われている。この愚者の旅を何枚ごとにいくつのステージに分けるかについても複数の説がある。詳しくは上でも紹介した「タロット・バイブル」で解説されている。
小アルカナのうちの数札は、それぞれのスート内のエース〜10が順序だったストーリーとしてつながっており、またスートどうしが棒→聖杯→剣→金貨 の順でひとりの人物の成長の旅としてつながっているとも言われている。
こちらのページに詳しく解説されている。
Lyrical Cards | タロットカードの意味・解説 | 小アルカナカード | 数との関係 http://www.lyrical.jp/library/tarot/minor/number/number.htm
Lyrical Cards | タロットカードの意味・解説 | 小アルカナ数札の物語 http://www.lyrical.jp/library/tarot/story/story.htm
比較で読み解く
比較で読み解く方向性もある。小アルカナの数札の性格は、スートごとにどう違うのか。コートカードのそれぞれの人物の性格は、人物ごと・スートごとにどう違うのか。
ここを掘ってみたい人は、こちらのページを参照されたい。
Lyrical Cards | タロットカードの意味・解説 | 小アルカナカード | 4つのスート http://www.lyrical.jp/library/tarot/minor/suit/suit.htm
Lyrical Cards | タロットカードの意味・解説 | コートカード・人物カード http://www.lyrical.jp/library/tarot/court/court.htm
Lyrical Cardsさんのサイトについて
上に紹介しまくっているLyrical Cardsさんのサイトは、本当に深くて納得できる解説が満載だ。私の紹介したページ以外にもなるほどという解説が盛りだくさんなので、ぜひ読み込んでみてほしい。小アルカナについての内容のみになるが、以下で書籍化されている。ぜひ大アルカナも含めて全体を書籍化していただきたい…
タロットは良い未来しか指ささない
最後に補足として言っておきたいことは、「タロットは構造上、良い未来しか指ささないものである」ということだ。つまり、タロットを使うにあたって、私たちが怯えるべきことは何もない。
大アルカナは、愚者が「世界」の完成を目指して歩む旅。
小アルカナは、やはり誰かが、最終的には「社会」の完成を目指して歩む旅なのだ。
その人なりの世界や社会が完成されるまで、タロットの世界の主人公は挫折や困難、試練、失敗、奢り、喜び、不安、悲しみに出会う。それらはすべて、その人にとって必要な経験であったのかもしれない。また、ひとつの「完成」は、次段階の新たな旅の始まりであるのかもしれない。
タロットの示す世界の姿はそのまま、私たちの人生そのものの寓意である。そしてタロットはその存在によって、私たちの人生の旅を全面的に肯定しているのだ。私はタロットのそういうところに最も魅了されているのかもしれない。