アファメーションは、AC(アダルト・チルドレン)の自己肯定感のアップや、ビジネスでの自己啓発の文脈でよく使われる心理メソッドだ。アファメーションにはピンキリあり、また安易に実践すると弊害が出る危険があるので注意が必要だ。アファメーションの定義、弊害、合っている人、実践方法、コツなどについてまとめておく。
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アファメーションとは(辞書的定義)
アファメーションとは、英語でaffirmation。affirmationの辞書的な意味は以下のとおりだ。
断言、確言、肯定、(宣誓に代わる)確約
― affirmationの意味 – 英和辞典 Weblio辞書
語源的にはa+firm+ation という成り立ちで、
a= 移動や方向、変化
firm= 強い、強化すること
ation= 動作や行動などを表す名詞語尾
となっている。「強める方向を目指して変化すること」というような根幹ニュアンスがあると言えそうだ。
眉に唾してかかれ
学問的正当性はあまり高くない?
アファメーションは学問分野では臨床心理学・認知科学の範疇で取り扱われてはいるものの、その学問的な正当性はあまり高くなさそうだ。関連の論文を検索しようと “ac.jp” をつけて探してみると論文をひとつ見つけることができたが、これの掲載されている学術雑誌の目次を見てみると個人的にはちょっと良くない意味で「うおお…」とのけぞるような感じだった。
学者による論文があって、関連する学会があって、というだけでは信憑性がはかれないのが科学の難しいところだ。
西尾氏と苫米地氏
日本でアファメーション関連の書籍を出している学者で目立つのは西尾和美氏(臨床心理学者、機能不全家族やACに詳しい)と苫米地英人氏(認知科学者)の2人だ。
西尾氏は2000円強のCDブックをAmazonや所属協会のサイトで複数出しているが、こちらだけは2万円近くする。このCDの評判はなかなか良いようだが、これが不当に高額であるかどうかは私には判断できないし、私は音声が苦手なので買う気にもならない。検証のためだけにおちおち購入できる値段でもないので、感想が言えず申し訳ない。ただし彼女の書籍は、基本的にはとても良いものと個人的には感じている(ACに向かって「親を許しなさい」と言うところだけは気に食わないが)。
苫米地氏については、心理学的な根拠が不十分であることや、書籍・セミナーなどで稼いでいる旨などを指摘する記事(この記事自体も情報商材屋のページなので注意)があった。彼の書籍の並びを見ていると、何かのメソッドを魔法のように褒めそやす扇情的なタイトルも多いように感じて個人的にはとても怪しく感じた。
彼ら2人以外の著者による関連書籍やネット記事となると、個人的には怪しすぎて近づきたくないものが大半のように思えた。単にアファメーションでGoogle検索すると「引き寄せの法則」とか「年収1億に!」とかいった言葉を散りばめた記事が上位にヒットして、怪しいことこのうえない。
ニューエイジの潮流
アファメーションの項は日本語版ウィキペディアには存在しないのだが、英語版は存在する。
Affirmations (New Age) – Wikipedia
このページによると、アファメーションの考え方はニューエイジの潮流に位置し、NLP(神経言語プログラミング)やNAC(神経連想コンディショニング)の分野と関連があるらしい。
ニューエイジとは日本語版ウィキペディアによれば以下のようなものだ。
ニューエイジ(New Age)とは、字義どおりには「新しい時代」であるが、神智学を淵源として1960年代にアメリカ合衆国西海岸を中心地とした霊(霊性・スピリチュアリティ)的、宗教的思想であり運動。玉石混交の感は否めないが、その思想的影響は現代思想史上、多大な影響と功績をもたらした。
―ニューエイジ – Wikipedia
ニューエイジ思想は世界的な影響を残した。20世紀後半ぐらいの時代にアメリカから入ってきた精神世界系の思想に触れるときには、ニューエイジ的なものが背景にあるかもしれないと当たりをつけておくといいかもしれない。特に自己啓発的な要素を含むものはニューエイジの息がかかっていると考えてだいたい間違いないはずだ。ニューエイジの根本的態度は自己啓発にあると言ってもいいからだ。
現在日本で流行ったり廃れたりしている「アメリカで大流行した」自己啓発メソッドは、ほとんどがニューエイジ系思想の輸入物(たいていは輸入の過程で少し劣化している)だ。ちなみに、かのアップル創始者スティーブ・ジョブズもがっつりとニューエイジの薫陶を受けている。
西尾氏が臨床心理学を学んだのも、活動を展開している中心地も米国カリフォルニア州。彼女は1945年生まれなので、単純計算でいけば彼女は大学学部生から修士・博士時代、ニューエイジの空気をたっぷり吸いながら研究を行ったことになる。
簡単にいえばアファメーションは、アメリカ西海岸から伝わってきた数ある自己啓発メソッドのうちのひとつなのである。
アファメーションの危険性
(安易な)アファメーションの危険性はネット上の記事を見るかぎりでもたくさん指摘されている。特に散見されるのが、以下のような場合においてアファメーションを使った場合に弊害があるという旨の記述だ。
- あまりに現実離れした夢を叶える魔法の杖のような効果を期待する(年収○億とか)
- うつ病などで認知が大きく歪んでしまっている
(アファメーションの言葉がまっすぐ入ってこず、「私は価値のある人間です」→「私は本当は価値がない人間…」などとなってしまう) - いま現在心身の安全が保てていなかったり、十分な支援を受けられていなかったり、加害を受け続けている
(現実には十分に愛されてもおらず幸せでもないのに無理に「私は愛されていて幸せです」などと頑張ってしまう)
個人的には以下のような場合も付け加えたい。
- 医師による治療・監督が必要な状態の精神疾患・精神障害などがあるのに、医師の指示を仰がない
(たとえば躁状態だったり妄想が出ていたりする人には症状が助長されてしまって危険な気がする)
以上のような場合でアファメーションをすると、芋づる式にトンデモセミナーなどにはまっていったり、うつが悪化して自殺に至ったり、医療が必要な人が医療から離れてしまったりする危険がある。アファメーションをする場合には、以上の危険性をよく把握したうえで、あくまで補助輪的な範囲で使う注意深さが必要だ。
アファメーションの安全な使い方
西尾和美氏によるアファメーションの定義
アファメーションに関して最もまとも(らしき)ことを言っているのが西尾氏なので、まずは西尾氏によるアファメーションの定義を引用しておく。
習慣になっているような害のある不健全なメッセージを、新しい、人生を肯定するような健全なメッセージへと変えていくのがアファメーションです。
アファメーションとは、自分を愛し認め、受け入れる言葉です。人生を前向きにとらえて、人間としてより成長できるような言葉です。健全な人間関係、思考、態度、行動、言葉の使い方を教える知恵の文章です。自分と相手を大切にし支えることができるようになる人生の道しるべです。
前後の記述も合わせて鑑みるに、西尾氏の定義するアファメーションとは以下のようなものだと言えそうだ。
機能不全家庭で育ったAC(アダルト・チルドレン)が、生育過程で受け取り続けたマイナスのメッセージを跳ね返してプラスのメッセージで置き換える作業
これはいわば、家族からの洗脳に対抗するための逆洗脳である、という旨のことを西尾氏は言っている。
アファメーションが合っている人
別項に書いたように、アファメーションには危険性や弊害、副作用もある。使うにあたっては慎重な注意が必要だし、現在の自分の状態にとってアファメーションが合っているか合っていないかをきちんと見極める必要がある。
アファメーションを安全に使うには、基本的には別項に書いた危険な状況の逆張りをすればいいわけだ。西尾氏による定義まわりの記述も含めて考えると、アファメーションが合っている人は以下のようになると個人的には考える。
子供の頃とは違った安全な環境に身を置いており、複数の人間関係にも恵まれ、過去のトラウマの処理があらかた済んで基本的には安定しているのに、ときどき湧いてくる不安や疑心暗鬼に振り回されるACの人
まずは
- 現在の環境が安全(新たな加害がない)
そして
- 友人知人・パートナーや支援者とおおかた健全な関係を結んでいる
(基本的には穏やかに楽しくつきあうことができており、関係性の中でアファメーションのもととなる小さな承認をもらえている)
かつ
- 毎日のうち6〜8割程度は「日常生活」が送れる
(一週間のうち4〜5日程度は朝ぼちぼちの時間に起き、できれば3食それなりに食べ、入浴してまあまあの時間に寝るという程度までPTSD症状から回復している)
なのに
- ときどき周囲の些細な言動やマスメディア、ネットなどの話に対して反応的になってしまい、落ち込んだり周囲に対して試し行為をしたり、不安や怒りで身体にストレス症状が出たりして「日常生活」や人間関係に支障が出る。こういったことの原因は自分のトラウマの残滓である自己肯定感の低さにあると自覚している
こんな人にはアファメーションが合っていると言えるだろう。
アファメーションするための最低条件
アファメーションをするにあたっての最低条件は、「必ず医師の監督を受ける」ということだ。
必ず精神科や心療内科といった専門医に定期的に通い、医師に処方された薬は指示どおり飲みながらアファメーションを実践しよう。アファメーションに取り組もうと思っているということを報告し、「おかしくなったら引き戻してください」と言っておくと理想的だ。
専門の医師は患者の様子をよく見ている。いっぽうで、精神疾患が出てきたり心のバランスを崩したりした場合、患者本人は自分がどんな状態であるのか自覚できなくなることが多い。
アファメーションをしようと思っていると報告した場合、いまの状態の患者にとって良くないと医師が判断すれば止めるだろうし、良いと判断すれば許可するだろう。報告しなかった場合も、アファメーションが合っていなくて調子が落ちたときには医師は調子の変化に気づいて対処してくれる。
だから、必ず専門医に定期的に通いながらやること。アファメーションだけでなく、その他の心理メソッドやサプリメントなど、あらゆるものについても同じことが言える。
アファメーションの実践方法・コツ
無理なく心から唱えられる内容を
アファメーションを実践するにあたってのコツは、「無理なく心から唱えられる内容を吟味する」ことだ。
アファメーションするときには、自分で言いながら自然と納得・実感することができ、無理のない文言を選ぼう。
たとえば、「私は十分に愛されていて幸せです」という言葉を、「心底」「疑問の余地なく感じて」「心身ともにホカホカに温まった」ことがあるなら、これをアファメーションの文言として採用していい。しかし、もしないなら、無理して使おうとする必要はまったくない。無理して使えばむしろアファメーションがストレス源となり、逆効果になりうる。
「見栄えのしない人間」だって生きていい
見栄えのあるアファメーションをしようなどと思う必要はない。「私は有能です」とか「私は魅力的です」とか、もしそれが嘘のように感じるなら使う必要はない。たとえ見栄えがしなくとも、これだけは本当だと太鼓判を押せるものだけ採用しよう。たとえば
「私は今日も生きていることができています」
「私は今日、少なくとも水を一杯飲むことだけはしました」
「私は昨日、お風呂に入りました」
「私の心臓は今日も止まらずに動いています」
「私の脳は私にきちんと呼吸させてくれています」
こんなことでいいのだ。こんな人間として最低限のことでいいのか、と思うかもしれないが、まずは「生きている」という一点だけにおいて無条件に自分を肯定するというのが、むしろ究極のアファメーションだと私は思っている。
「今日も1日何もしなかった」? ノーノー。私は今日、少なくとも死なずに生きていたのだ。身体も脳も精神も精一杯に活動し、生きていたのだ。それでいいではないか。そこからこそが始まりだ。
ひとりの人間は本来、生きるにあたって有能であったり魅力的であったりする必要はない。無能だろうが泥や涙にまみれて醜かろうが、人は生きていていいのだ ―そういった真理を私たちは、幼少期に保護者から自然と与えられて育ってしかるべきだったのだが、運悪くそこを与えられてこなかったので、仕方ないから自分で自分に与えるまでだ。その有効な方法のひとつがアファメーションだと思ってほしい。
PTSD症状に振り回されてしまっている人は
まだPTSD症状に支配されているときのほうが多い人は、アファメーションを実践する前に本格的にトラウマを癒やす作業を経たほうがいいだろう。これは骨の折れる作業だが、医師や支援者に指導・監督・応援してもらいながら一度取り組んでみる価値はあると思う。私の場合、取り組んでいる間は、癒やされていく実感がありつつ非常に精神力を使うのでクタクタに疲れてしまっていたが、やってみて本当によかったと思っている。
ACやPTSD患者向けの複数のワークブックにゆっくり数ヶ月かけて取り組んだあとは、数ヶ月のうちに初めて働くだけの気力と、自分に本当に無理のない仕事を選ぶだけの冷静さが出てきたのだった。以来、私は以前のように心折れて仕事を投げ出してしまうことなく、着実にささやかなキャリアを積んできている。
イチオシはこのワークブックだ。分厚くて大きくて重くて正直ものすごいプレッシャーを感じさせられる本なのだが、中身は自分をトラウマから自由にして自尊心を取り戻させてくれるメソッドがぎっちりだ。私はこの本に命を助けられたと思っている。この本はACだけでなく、事故や犯罪、戦争からのサバイバーなど、PTSDにさいなまれるトラウマサバイバー全般を対象としている。
次に少し気軽にとりかかれるのが、ACを対象とした西尾氏のワークブック。上に引用した、私がアファメーションという概念を知るきっかけになった本だ。
上にも書いたとおり、「親を許しなさい」という章があってそこだけは不満なのだが、それ以外はとても良い本だ。気軽に取り組みやすいワークがテンポよくコンパクトにまとめてあるし、翻訳本ではないので上の「心とからだと魂の〜」よりもずっと読みやすい。
西尾氏の本をまず読んでみて、自分のトラウマはこれでも太刀打ちできないほどハードだと感じたら、「心とからだと魂の〜」にも取り組んでみるというのは良い一手だと思う。
続編では便利なアプリを紹介
続編では、むずがゆいのもあってなかなか続けられないアファメーションを続けやすくさせてくれる、アファメーション用の便利なアプリを紹介している。