女性にピルを、もっとピルを ―生理痛を鎮痛剤でごまかさないで

この記事の所要時間: 2058

2016年6月、「子宮内膜症啓発会議」という団体による、子宮内膜症についての講演動画がTwitterで回ってきた。その内容に打たれて関連のツイートをしたところ、多くの反響をいただいた。関連の情報と、思ったところをまとめておきたい。

「子宮内膜症啓発会議」の講演動画書き起こし・解説

こちらの大見出し内の引用表示内の情報すべて、また図内の情報のすべては、「子宮内膜症啓発会議」による講演

現代女性にふえている子宮内膜症
〜子宮内膜症が及ぼす様々な疾患・過去から未来〜
講師: 太田郁子(倉敷平成病院婦人科医長/日本子宮内膜症啓発会議実行委員)

から私の知識と聞き取り能力でもって書き起こし・整理をしたものだ。また、引用表示以外の解説部分は、私の知識による解釈をとおしてつけたもの。

どちらの内容にも、何か誤りや問題があればどんどん指摘していただきたい。

元動画へのリンクはこちら。

講演 『現代女性にふえている子宮内膜症』 | JECIE

講演 『現代女性にふえている子宮内膜症』 | JECIE 
http://goo.gl/9eyRUy

子宮内膜症と生理痛、低用量ピルにまつわる現実

子宮内膜症はこんなに多い

現代日本人女性のおよそ10人に1人(約260万人)が子宮内膜症

このうち病院で治療を受けているのは約60万人

生理痛がある人の10人に7人は子宮内膜症を発症

子宮内膜症の患者のうち、病院で治療を受けているのは4人に1人強(260万÷60万)。つまり4人の子宮内膜症患者のうち3人は子宮内膜症なのに病院で治療を受けていない。

自分に生理痛があれば、自分が既に子宮内膜症を発症しているか、将来発症する確率が50%よりも高いととらえてよいだろう。

子宮内膜症は長期間コントロールし続けるべき

子宮内膜症は生理のたびに悪くなり、閉経まで治らない進行性の病気

子宮内膜症は閉経まで長期に薬物治療(低容量ピル、黄体ホルモン剤など)でコントロールし続けるべき病気

子宮内膜症は、生理が続く限り年を追うごとに悪化しつづける進行性の慢性疾患なのだ。あとで詳細に図示するが、生理痛を鎮痛剤でごまかしごまかし対応していると、最終的には不妊症や生命の危険におちいるリスクがある

子宮内膜症は診断しづらい病気。しかし確実に不妊症や病気のリスクが上がっていく

初期の子宮内膜症は検査で診断できないので、生理痛があって受診しても「機能性の月経困難症」と診断されるだけの場合が多い検査で診断できるほど進行した時点では既にかなり不妊率が上昇し、ほかの疾患も併発しているリスクがある

私も20代半ばごろ、何度も失神するほどの生理痛があったため婦人科に行って検査を受けたが(たぶんエコーと内診)、「内膜症や筋腫など、器質性の病気は何も見当たらない。典型的な機能性の月経困難症。痛みを感じやすいとか子宮が未熟だとかの体質の問題だろう」と言われた。それから痛みが軽快することはなくむしろ強くなっていき、30代になって初めて、「初期の子宮内膜症の可能性もある」という言葉を別の婦人科医から聞くこととなった。

生理痛があればとにかく早期に低用量ピルなどでの治療を

子宮内膜症の発症の多くは10代。発症から診断まで平均およそ12年

初潮から6ヶ月以上経過していれば低容量ピルが服用できる

生理痛が毎月ある場合はできるだけ早期に薬物治療(低用量ピル・黄体ホルモン剤など)の開始がすすめられる

海外の10代女性の約6〜8割が低用量ピルを服用している

20代の機能性月経困難症の人の中には初期の子宮内膜症の人が隠れている可能性

子宮内膜症は手術しても2年以内に半数が再発する。再発防止のためには薬物治療(低容量ピル、黄体ホルモン剤など)が必須

「初潮が来てまもない10代の少女にピルを使っても身体に悪影響はないのか」と不安になる必要はないということだ。むしろ、子宮内膜症もPMSも防げ、コンドームよりもずっと確実な避妊ができる。子宮内膜症リスクの高い現代を生きる若い女性にとって、早期からのピル服用のメリットは大きいと言える。

海外の10代女性の低容量ピル服用率の高さをみると、日本はこの面で著しく遅れていると言わざるをえないだろう。

子宮内膜症・不妊症が増えている理由

栄養状態がよくなったため初潮年齢が早くなった

未熟な子宮で初潮を迎える・生理回数が多くなるため、骨盤内臓器が逆流血にさらされる機会が増えた

→子宮内膜症が増えた

→20〜30代の時点で子宮内膜症が重症化している人が増え、子宮内膜症性の不妊症が増えた

→晩産化の傾向も加わり、不妊に悩む人が増えている

ピル服用について、もともと体内にあるホルモン以外のホルモンを使うことに「自然の摂理に反している」と抵抗を覚える人も多いようだ。しかし、そもそも現代の人間の生活スタイル自体がこの100年ほどで大きく変わり、原始時代では考えられなかったようなものとなっているのが現実だ。

先進国の中流以上の家庭では毎日食べるものに不自由しないし、女性が生涯に妊娠・出産する回数は著しく減った。この生活自体が、自然の摂理に反しているといえば反していると言えるのではないだろうか。そして、ここで議論するべきなのは「だから中世以前の原始的な生活に戻るべき」という話ではなく、「では人々がこの生活に適応し、高いQOLを保っていくにはどうしたらいいのか」という対策の話だろう。

子宮内膜症の進行

※図内の情報は全て動画内から書き起こし、整理したもの

  第1期 第2期 第3期  第4期
罹患年齢 10代〜20代前半 20代〜30代 20代後半〜30代  30代〜40代
進行期間 約12年 約3〜6年 約3〜8年  
症状 2〜3ヶ月に1度はつらい生理痛がある。早期から生理痛が起こるので「体質的に生理痛が強い」と捉えられがち 2〜3ヶ月に1度はつらい生理痛がある。2〜3年前に比べると痛みが増す 月経困難症に加え排便痛、性交痛がある場合がある。まったく症状がない人もいる 周囲の他臓器に症状が出はじめ、大きな手術が必要になる
病変の状態 子宮・卵巣・腹膜などに小さな病変が散在 子宮・卵巣・腹膜などに部分的な癒着がみられる 卵巣が正常の2倍以上になる。子宮と直腸など、他臓器との癒着がみられる。ダグラス窩は消失。 凍結骨盤の状態。子宮・卵巣・直腸・腹膜など骨盤内の臓器が癒着して一塊となり、個々の臓器が区別できない 
検査での発見 生理中でない限り内診でもMRIやエコーでもわからず、開腹や腹腔鏡検査でしか発見できない。本人も病気だと思わない場合が多い 内診により痛み・硬結が認められることがあるが、MRIやエコーでもなかなか発見できない 画像診断が可能  画像診断が可能 
診断名 ほとんどの場合「機能性月経困難症 ほとんどの場合「機能性月経困難症  画像診断を行なった場合、子宮内膜症(+器質性月経困難症)  画像診断を行なった場合、子宮内膜症(+器質性月経困難症)
不妊率   高まる

もっと高まる

さらに高まる
他疾患の併発     卵巣腫瘍などを伴う場合あり
卵管巻き込み、病変からのサイトカインによる卵の劣化
不妊症
尿管巻き込み
無機能腎
腸管巻き込み
腸閉塞


チョコレート嚢胞のがん化
のリスクあり
(1000人に7人程度。がん化すると子宮・卵管・卵巣・リンパ節など周辺組織をすべて病巣と一緒に取り除く必要あり)

子宮内膜症の予防・治療

生理痛がある ≒ 子宮内膜症の疑い と考え、予防の意識を持って
子宮内膜症は閉経まで治らないものとして長期に薬物治療(生理を止める・軽くする)でコントロールし続けるべき病気
生理痛が毎月ある場合、初潮から6ヶ月以上経過していたらすぐに開始
薬物治療はできるだけ早く、最大限行なうべき←手術による治療では2年以内に半分の人が再発するから。手術後の再発を避けるために薬を使用することが有効
偽閉経療法:
エストロゲンを止めることによる更年期障害・骨密度低下の副作用
偽妊娠療法:
吐き気・血栓症などエストロゲンによる副作用(低容量ならリスクは低め)
→どちらも効果はほとんど変わらないのでライフスタイルなどに合わせて選んで
どちらの治療も排卵が止まって妊娠できなくなるので、妊娠を希望しているときはこの治療はせず、手術療法(腹腔鏡手術)や不妊治療を
薬物治療で痛み・出血が抑制できない場合も手術療法
 43歳以上は副作用の少ない薬物治療(ディナゲストなどの黄体ホルモン剤など)を選択
基本的には低用量ピルで継続治療するが、妊娠したいとき、ピルで生理がコントロールできないときは手術療法を選択する。また43歳以上の場合はエストロゲンの副作用(血栓症など)のリスクが大きくなってくるので、エストロゲンの含まれない黄体ホルモンのみの錠剤(ミニピルとも呼ばれる)などによる薬物治療がすすめられる。

まとめ

子宮内膜症は「10人に1人」の非常に多い疾患生理痛を見過ごさず、早期に治療を進めて
確定診断が難しい病気なので、疑われれば早期に治療を
治療は必ずしも苦痛や副作用を伴うわけではない。将来悪化させないためにきちんと治療を選んで
女性として健康で賢く生きていくために「良く知る」ことが大切。慣習や友人の助言に惑わされず医師と相談を
・「出産すると生理痛が軽くなる」というのは、もともと子宮内膜症を持っていた人が妊娠・授乳期間中生理が止まることによって内膜症が軽快するから→5年ぐらいたつとまた悪化
初期段階では、毎月の強い生理痛を訴えないかぎり、医師も気づくことが難しい
思春期の女の子にも第一選択はピル。月経前症候群に抗うつ薬を使ったり、痛みに漢方薬を使うよりは1日1回ですむピルを
「慣習や友人の助言に惑わされず医師と相談を」ここが泣けた。この動画を紹介するツイートをしたところ、複数の「社会的な慣習の影響を受けたり、周囲の素人からの反対に遭ったりして治療を阻まれた」という声が届いた。あとに書くが、慣習や周囲に惑わされて治療が遅れたのはまさに私もそうだ。
 
ここで付け加えておきたいのは、特に今よりも時代をさかのぼればさかのぼるほど、「慣習に浸されている」「子宮内膜症と生理痛の関係についての最新の知識が十分でない」婦人科医が残念ながら多いと思われることだ。現在30代半ばである私が10代20代のころに診察を受けた婦人科医はみなこうした人たちだったと感じる。
 
慣習や友人知人・家族に惑わされないだけでなく、自分で最新の知識を集めて知っておき、「医師の対応を疑ったり異議を申し立てたりすることも辞さない」というぐらいの態度でいる必要があるのだろう。

 宇樹の月経困難症体験談

宇樹の15年余にわたる月経困難症(いま思えば子宮内膜症疑い)の体験談を書いておきたい。

初潮〜20代前半 

初潮から軽い生理痛があった。これは年を追うごとにひどくなった。高校ごろには、たまに鎮痛剤を飲んだり、保健室で休まなければならないぐらいになった。

そのうち、あまりに痛く、痛みで何度も失神するほどになった(いま思えば迷走神経反射によるものと思われる)ので心配になり、大学ぐらいからはときどき婦人科に通うようになった。

婦人科では、「内膜症とか筋腫とか器質的な問題は何もない。典型的な機能性月経困難症。痛みを感じやすいとか、子宮がまだ未熟とか、ともかくそういう体質なんだろうね」「子ども産むと楽になるんだけどねー」などと顔も見ずに言われ、とりあえずという感じで処方薬のイブプロフェン(ボルタレン)を処方されたりした。

イブプロフェンを飲むとかなり楽になったが、私は胃腸が弱いので、いちばん痛む3日間ぐらいを痛みを十分に抑え込めるほど飲むと胃がキリキリ痛み、下痢を起こした。胃腸症状が出たと訴えると、「ずいぶん敏感なんだねえ…」と面倒くさそうに胃薬を出されるだけだった。

※最近になって、こういう体質の場合は同じ強めの鎮痛剤でも座薬にすれば胃腸症状を避けられる、と医療関係者から聞いた。こういうことも誰かがもっと早く教えてくれていれば私は無駄な痛みに耐えなくて済んだのに、と思うと本当に悔しい。

※「イブプロフェン(ボルタレン)」は「イブプロフェン(ブルフェン)」の誤りです。ご指摘くださった方ありがとうございました。私は処方薬の鎮痛解熱剤ではポンタール、ボルタレン、ブルフェンなどいろいろ処方されたのですが、婦人科に通わなくなってからはイブプロフェン系の市販薬を使うことが多かったので、どうも頭の中で混ざっていたようです。

その後、女性誌(an-anだったと思う)で「ピルを飲むと生理痛が軽くなる! 避妊もできる! きれいになれる!」みたいな特集が組まれたことがあった。へえーと思ってやはり婦人科に行ったら「まあ生理痛は軽くなるし避妊もできるから飲んでみれば?」という感じで1シートだけ処方された。

母からのモラハラ混じりの強い反対→ 治療断念

しかし、(当然賛成してくれると思って)母に報告したところ、妙に強い反対に遭った。もごもごとボヤかしていたが、要するに母は次のようなことを言っていた。

  • ホルモン剤を飲むなんて自然の摂理に反していて怖い。そんなものは賢い女性なら避けるべき。自分だったら絶対飲まない
  • 以前旅行のために生理日をずらしたくてホルモン剤を飲んだことがあったが、ものすごく具合が悪くなった。ホルモン剤などやめたほうがいい
  • そんなものを飲んでいると男の人から「都合のいい女だ」と思われそうだからやめておけ
  • そういう避妊剤を飲んでいなきゃいけないような性関係をあちこちの男の人と結んでいるのか? どうなのだ、答えろ

いま思えば、知識不足と社会の女性差別的慣習をベースにしたモラハラ的発言群そのものだが、当時は私は母に取り込まれていたのでしおらしく言うことを聞いてしまった。

20代後半

その後は、保険適用外の漢方薬、ハーブ薬、サプリメント、アロマテラピー、アーユルヴェーダ(インドの古典医学)、ひいては布ナプキンや月経血コントロールまで、生理痛をよくしてくれそうに思えたありとあらゆるものに必死になって飛びつき、実践した。

症状はいっこうによくならなかった。毎月合計5万円ほどが飛んでいった。そればかりでなく、「生活習慣が悪くて子宮が冷えている」だの「月経血コントロールができないのはだらしない」だのいったようなメッセージをこうした代替医療関連の情報から受け取りまくっていた私の自己肯定感は、落ちるどころか地面に埋まらんばかりになっていた。

迷走は5年以上続いた。当時はTwitterを使っていなかった(そもそも今のように普及していなかった)こともあり、私の側の知識が少なかったのも災いしたと思う。生理のたびに寝込み、月の最低およそ半分は体調が悪いのではまともに働けるわけがなく、私の履歴書上のブランクはどんどん大きくなっていった。

30代〜現在

30を過ぎたころに東日本大震災が起き、もともと私に異常に過干渉で依存的だった母がいよいよおかしくなったので、私は実家を逃げ出した

そこから経済的に余裕がなくなったため、月に何万もかけている余裕がなくなった。もう代替療法は諦めるべきだと思ったし、私にピルを飲ませまいとする母からも逃れたので、行ったことのない別の婦人科に行ってピルを処方してもらった。

その男性婦人科医は比較的若く、過不足なく論理的で、高圧的なところがいっさいなかった。「最近、とてもいい超低用量ピルが認可されたんです。少なくとも生理は軽くなるし、検査でわからないような子宮内膜症が隠れていた場合もそれを少しずつよくします。なかった場合は発症自体を予防しますから、まず気軽に飲んでみてください」といって、バイエルのヤーズをくれたのだった。私が「子宮内膜症の可能性がある」という意味のことを医師から言われたのはこのときが初めてだった。

1シートめで重いPMSが雲散霧消して、心底驚いた。まあここはプラシーボの可能性を考えるにしても、実際に痛みも出血量も周期を追うごとに減っていった。数ヶ月後には鎮痛剤がいらなくなり、1年ほどたつころには消退出血の時期にもおりものシートがいるかいらないかぐらいの出血で済むようになってしまった。出血日もそれ以外の日もいつも元気で、仕事だろうが外出だろうがまったく気にせず過ごせるようになり、嘘か天国かという感じだ。

痛みのために泣いた日々

鎮痛剤がいらなくなった頃、嬉しいと同時に猛烈に悔しくなって泣いた。私はなんて無駄な苦しみを長いこと続けてしまったんだろう。いまから後悔しても、履歴書のブランクも、自分の20代の時間も返ってこない。悔しくて悔しくてたまらなかった。そして、それまで周囲の家族・知人や社会的空気が冷たかっただけでなく、ヤーズを処方してくれた医師以外、親身になって対応してくれた婦人科医が誰ひとりいなかったこと、私に医師に対する疑問を持たせてくれる最新の正しい知識が世間に広く普及していなかったことは、恨めしくてしかたがなかった。

ピルが効いてくるまでの期間のある生理日、相変わらず痛くて痛くて、ピルを飲んでもよくならなかったらどうしようと不安で、ぼろぼろ泣きながら寝ていたことがあった。それを見た今の夫が、「僕に何かできることはないか」と言うので、恥をしのんで「添い寝しておなかを温めてほしい」と言ったところ、「わかった」と短く答えてさっと後ろから添い寝し、大きな手のひらでおなかを温めてくれた。私は、嬉しさに襲われると同時に、それまで誰ひとりそのように接してくれなかったことについての意識していなかった大きな悲しみに圧倒されて、わんわん声をあげて泣いた。

女性たちよ、どうか負けないで

今回自分の体験をツイートしたところ、似たようなケース、もっとひどいケースについての声が複数寄せられた。

世の中には、社会の無知と慣習、偏見のために泣き、身体を壊し、思ったようなキャリアも踏めず、生活は痛みに支配され、経済は困窮している女性たちがきっとたくさんいる。そのうち少数ながら、放置されつづけた子宮内膜症のために最終的に卵巣がんなどに至り、命を落とす人さえいるかもしれない。そうでなくとも、追いつめられて自殺する人もいるかもしれない。

上に書いたとおり、私は自分自身こういったことのためにたくさん泣いてきた。同じように泣いている女性が世の中にたくさんいると思うといてもたってもいられない。

どうか、苦しむ女性たちは、最新の知識を身につけて自分を守ってほしい。あなたは悪くない。だらしなくもないし、甘えてもいない。あなたの心と身体と命と生活を守るために、どうか堂々としていてほしい。

そして彼女たちを大事に思う周囲のすべての人たちも、彼女たちの苦しみを些細なこととしてなおざりに扱ったりするのでなく、どうか正しい知識のもと正当に扱い、対処してほしい。

付記1:緊急避妊薬ノルレボの一般用医薬品化を

ノルレボは、性被害を受けたときや避妊に失敗したとき、事後にすみやかに服用すれば妊娠の確率を大幅に下げてくれる、黄体ホルモンからできた緊急避妊薬だ。

事後のできるだけ早い段階での服用が肝要な薬であるにもかかわらず、2016年時点の日本では病院で処方を受ける以外に手に入れる方法がない。また1回分の入手にかかる金額が1.5万程度の高額で、若い女性や経済的に余裕のない女性には手が届きにくい。このため、日本にはノルレボの一般用医薬品化と低価格化を目指すフェミニストがいる。

私もノルレボの一般用医薬品化と低価格化の動きを支持する。以下に少し詳細を記す。

ノルレボ普及による事前避妊意識の低下リスクについて

ノルレボの一般用医薬品化に対する反対の声の大きなもひとつとして、「ノルレボの普及によって事前避妊意識が低下するリスクがあるから反対」といったものがある。

この意見には一部納得できる。ノルレボの普及によって「あとでノルレボを飲めばいいから」と考えて事前避妊を行わない、という人が増える可能性は、もちろんあるだろう。
 
仮にノルレボの存在によって、男性がパートナー女性の合意がないのにもかかわらず事前避妊策をとらなくなるのであれば、これは女性にとって要らぬ性被害(≒心身を尊重されない性交渉)のリスクを増やすものとなる。いっぽう、女性が自ら事前避妊策をとらずしょっちゅうノルレボに頼るようになるのであれば、安易に自らのホルモンバランスを乱すことを繰り返し選んでしまう状態になるだろう。
 
これらは確かにゆゆしき問題だ。婦人科のサイトにも以下のように書かれている。
 
(緊急避妊を)何度も繰り返すことは、絶対に止めてください。緊急避妊はあくまで「緊急時」のためだけにある最終手段です。一時的にホルモンバランスを乱すことになりますので、体にはかなり負担がかかります。もちろん、望まない妊娠をしてしまうよりは心身への負担は軽いですが、繰り返すことはお勧めできません。
 
しかし、だからといって、こういった「事前避妊意識の低下」が、ノルレボが必要な人たちからこれにアクセスしやすい道を絶っていいだけの十分な理由になるかといったら、否だと私は思う。

リスクとベネフィットの問題

これはリスクとベネフィットの問題だ。
 
一部の男女で事前避妊意識が低下するリスクと、女性全体で避妊の選択肢が増えるベネフィットを比べた場合、ベネフィットのほうが上回っているだろうと私は判断する。
 
逆に、ノルレボが普及しなかった場合、「女性の避妊の選択肢が現在より増えない ≒ 望まない妊娠・中絶に追いやられる確率が高いまま」という(既にありながら放置されている)リスクが大きいのに比べ、ベネフィットは「事前避妊意識が現在のまま保たれる」というものだけだと思われる。
 
ある選択肢においてリスクとベネフィットを比較したときにベネフィットが大きい場合、その選択肢をとるケースでわかりやすい例はワクチンだ。
 
ワクチンは免疫を刺激するわけだから、もちろん副作用をゼロにはできない。多くの人に軽い副作用が起こることは確実だし、非常に稀であるが、重篤な副作用も出ることがある。しかし、そういった副作用のリスクよりも「多くの人を感染症から守る」というベネフィットのほうがはるかに大きいのだ。
 
車や飛行機などの乗り物のたとえでもいい。
 
人々が車や飛行機に乗るようになって、車や飛行機の関係する事故で怪我をしたり死んだりする人が出るというリスクが生まれた。しかし今のところ人々は、便利に素早く移動することができるというはるかに大きなベネフィットをとることを選んでいるわけだ。
 
刃物や、向精神薬も、携帯電話もそうだ。事故によるリスク、悪用しようとする人によるリスクは、ほぼ絶対、ゼロにはできない。けれどベネフィットのほうがはるかに大きいから、皆がこれらを適切な法やルールのもと使うことを選んでいるのだ。

適切な法・ルール整備、正しい知識・意識の啓発を

ワクチンも、乗り物も、刃物や向精神薬、携帯電話も、運用においてさまざまなリスクが検討されたうえで、それを最小限にするための法やルールが設定されている。ノルレボ普及の試みのさいにももちろん、こうした、事故や悪用を防ぐための法・ルールの整備を絶対に欠かしてはならない。また、関連の正しい知識や意識の啓発も非常に大事だ。
 
法やルールの十分な検討・整備なしのノルレボ一般医薬品化はあってはならない。ただノルレボは、先に広く市販されてしまって法的な問題があとから噴出しているドローン問題と違い、基本的にはシステム的に、「法やルールの整備なしに市販化」という事態は起きづらいのではと私は考えている。
 

付記2:子宮内膜症啓発会議について

この記事で引用した講演動画を発信している「子宮内膜症啓発会議」のサイトはこちら。

子宮内膜症情報ステーション 
http://www.jecie.jp/

このサイトには、子宮内膜症の簡単なチェックリスト、各世代の女性向けの子宮内膜症啓発パンフレット、詳細な解説ページなど、非常に充実した情報が掲載されている。生理痛があるあなたにはぜひ一度訪れてほしい。

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